【お役立ちコーナー】マンション管理委託契約書改訂版解説(その1)

2023年にマンション標準管理委託契約書が改訂されました。
このコーナーでは、改訂内容について詳しく解説していきます。

今回は「担い手確保・働き方改革に関する対応」に関する部分について、条文、改訂箇所を具体的に説明していきます。

(管理事務の指示)【新設】
第8条 本契約に基づく甲の乙に対する管理事務に関する指示については、法令の定めに基づく場合を除き、甲の管理者等又は甲の指定する甲の役員が乙の使用人その他の従業者(以下「使用人等」という。)のうち乙が指定した者に対して行うものとする。

(改訂箇所の解説)
そもそも管理委託契約は区分所有者の団体である管理組合と管理会社との間の契約なのですが、各居住者が管理会社の担当者へ個別に問い合わせや要望事項を申し入れることにより業務が煩雑となってしまうケースがあります。
管理組合(甲)が管理会社(乙)に対して管理事務に関する指示を行う場合には、管理組合の代表者(管理者もしくは理事長)もしくは管理組合役員のうちから管理事務を指示する者を選任して行うことを定めたものです。また、管理会社としても相談や要望を受ける者を指定することで甲乙とも連絡窓口が一本化され、より円滑な業務の遂行が期待できます。
ただし、管理会社に対して相談や要望事項を伝えること自体を妨げるものではありません。
また、「法令の定め」とは、建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号。以下「区分所有法」という。)第34条第3項に規定する集会の招集請求などが想定されます。
ポイントは、「甲乙間の連絡は、あらかじめ担当者を決めておきましょう」という点で、特定の区分所有者または理事会役員が、理事会の許可なく管理会社の担当者に過度な要求をする、といったハラスメント行為の「予防策」の意味合いがあるといえます。
最近、管理会社の業務の質が悪くなった、申し入れをしてもなかなか対応してもらえない、委託費の値上げを受け入れてくれなければ契約を解除すると言われたといったご相談が多くなってきましたが、実態としましては、管理組合側のハラスメント行為が原因となっているケースもあるようです。
「契約を解除されてしまった」といったことがないよう、管理組合側としても、管理委託契約は甲乙間の対等な契約行為であるということを十分留意して、お付き合いしていく必要があるといえます。

当機構では管理会社に関する相談対応の実績も多数有しておりますのでお困りの方はお気軽にご相談ください。
他には下記の内容について追加・変更となりましたので次回以降順次解説していきます。
○担い手確保・働き方改革に関する対応
(カスタマーハラスメント、管理員・清掃員の休暇取得等)
○書面の電子化及びIT総会・理事会等DXへの対応
○マンション管理業の事業環境の変化(居住者の高齢化、感染症のまん延等)への対応
○その他
・(逗子のマンション法面崩落事案を踏まえ)管理会社の受託する管理業務の範囲が明確に規定されるよう、契約締結に際し、その内容を双方が明示的に確認すべきことをコメントに記載
・個人情報保護等に関する規定の充実
・宅地建物取引業者等への提供・開示事項の拡充(長期修繕計画等の写しの提供、点検・検査・調査の有無、管理員業務や清掃の内容等の開示)

 

マンション管理士 長濱 千奈美